運動エネルギーを変化させながら金属基板上につけた薄膜に電子線を照射すると、膜表面での雷の反射率及び膜を透過する電子数は、膜の電子構造に依存して大きな入射電子エネルギー依存性を示す。特に0〜20eVの低エネルギー電子線を用いた場合、膜内に注入された電子の非弾圧散乱過程においてエネルギー損失を受けた入射電子が伝導帯底に落ち込むと、伝導帯底が真空準位より下に存在する場合には再び真空中に飛び出すことができないために透過電流の増加として観測される。すなわち、透過電流の増加を与える入射電子エネルギーを測定することにより膜の電子親和力の絶対値を測定できる。本研究では、上記実験法により有機固体の電子親和力を決定しようとするものである。61年度は、超低エネルギー電子透過実験装置の改良とともに、新しく試料導入部を製作完成することを主目的とした。 60年度までに行った実験に基づき、新しい電子銃部の製作と、溶接ベローを用いた超高真空試料導入装置の設計製作を行ない、これらを完成させた。試料導入装置は、試料を液体【N_2】を用いて冷却することができると同時に約600゜C程度に加熱することが可能である。これ等の装置を用いて、60年度までの研究で問題のあった点に関する補足実験を行ない、長鎮アルカン結晶(垂直配向膜)の伝導帯底が真空準位より0.5eV上部に位置すること、及びその非晶相では、状態のしみ出しにより、伝導帯底が真空準位以下に移動することを明らかにした。 一方、電子写真感光体として重要な、ポリマビニルナフタレン及びポリビニルカルバゾールに対しても測定を行ない、これ等の電子親和力を決定することに成功している。
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