本研究は液晶の熱伝導率の簡便な測定法を確立し、それを用いて液晶の各相における熱伝導率の異方性を測定しその機構について考察することを目標として行われた。 液晶の熱拡散率の簡便な測定法として熱パルス法を提案した。この方法は、一方の基板に加熱電極、他方の基板にセンサー電極を設けた液晶セルを用い、加熱電極に電圧パルスを印加した時のセンサー電極の抵抗変化から温度上昇を検出することに基づいている。この結果を一次元線形熱伝導方程式の解とフィティングすることによって熱拡散率が求められる。この方法は、温度上昇を極力低く抑えること、センサー電極幅やセル厚に対して加熱電極幅を充分大きく取ること、セル厚と熱パルス幅を適当に設定することによって充分な測定精度を与えることが、今までに他の測定法によるデータがあるグリセリンやネマティク液晶MBBAについての測定から明らかになった。 この方法を過去に測定例の無いスメクティック液晶8CBに適用し分子長軸の配向方向の熱拡散率を垂直配向セルで、それに垂直方向の熱拡散率を平行配向セルで測定した。また、示差走査熱量計による比熱の測定とヘアーの比重計による比重の測定とあわせて熱伝導率を求めた。 これらの温度依存性の測定結果から、液晶相ではスメクティック相においてもネマティク相においても分子長軸に平行方向の熱拡散率の方が大きいことが分かった。その差は、ネマティク-等方相転移点より温度が低いほど大きく、また、スメクティック-ネマティク相転移点でも大きな飛びを生じないことも明らかになった。以上の実験結果から、液晶の熱伝導の異方性は分子長軸の長距離配向秩序にに支配されており、層構造の秩序にはあまり依存しないことが明らかになった。
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