ネマチック液晶について61年度、62年度に得た理論的結果を集大成し固体基板壁をはじめ、各種界面における界面現象に関して、多面的・総合的に実験結果との比較検討を行なった。界面張力の理論的表式は二つの部分すなわち(イ)分子間力ポテンシャル、及び(2)排除体積効果、の寄与から成り、それぞれ分子配向の方向及び秩序度の関数として表されている。この表式によれば、分子の個性は引力ポテンシャルの係数で表現され、界面の個性は排除体積効果を通じて現われる。すなわち、排除体積効果は(a)自由表面では分子を面に垂直に、(b)ネマチック相と等方相との界面や、(c)固体壁では分子を面に平行に配向させるように働く。一方、分子はそのポテンシャル係数の値によって、どの界面でも同じように特定の方向を向こうとする。排除体積効果はエントロピー効果なので高温で優越し、エネルギー効果である引力ポテンシャルの働きは低温で優勢となるが、この両者の競合・協力によって特定の界面における特定の分子の配向の振る舞いは大局的に理解しうることが示された。この理論的予測は、多くの分子が自由表面で垂直に、固体壁で平行に配向する事実や、特定分子の各界面では、温度の低下にともなう特徴的な配向変化など、実験結果と良く一致することが示された。 また、本研究を通じて得られた、このような理論的及び実験的知見はバルクのスメクチック液晶での分子配向のミクロなメカニズムの解明にも有効に応用されることがわかった。今後、この方向の理論的考察とつなげて研究を進めたい。
|