本研究では、液晶分子を剛体の棒状粒子で近似し、分子間引力だけでなく強い剛体的斥力をも及ぼし合うと考え、平均場近似を用いて、(a)ネマチック液晶の自由表面、(b)ネマチック相と等方的液相との界面、(c)平滑な固体基板とネマチック液晶との界面、につき、界面張力を分子配向の関数として統計力学的に計算し、分子論的な表式を与えた。特に、剛体的斥力に基づく分子間排除体積効果は、(a)の場合には分子長軸を表面に垂直に、(b)及び(c)の場合には界面に平行に配向させるように働くこと、また、引力ポテンシャルは、特定の分子をその分子構造に応じて、(a)(b)(c)のどの界面でも同様に配向させる傾向があることなど、相互作用の特徴と各界面での分子配向との相関について多くの知見を得た。そこで、各種界面における種々の分子の配向とその温度依存性に関する実験データを収集し、計算結果に基づいて総合的な解析を行い、(a)自由表面での可能な分子配向のタイプ;MBBAやEBBA分子の温度による垂直【tautomer】斜め配向転移;ネマチック一等方相転移温度での表面張力の不連続的変化、(b)ネマチック一等方相界面での分子配向と同じ分子の自由表面での振る舞いとの相関;(c)固体表面での70CBや80CB+8CB混合物分子の平行【tautomer】垂直配向相転移、などがすべて引力と斥力との総合的効果として理論的に説明し得ることを示した。また、(a)(b)両界面での分子配向の比較検討による引力定数の推定、固体表面での分子配向の綿密な検討と理論的説明を行った。 今後は、本研究を通じて明らかになった分子間力に関する知見を生かし、界面物性とバルク物性とを総合的・統一的に研究することによって、近時解明を急がれているスメクチック液晶各相構造の分子的機構を明らかにして行きたい。
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