研究概要 |
本研究は有機金属気相成長(OMVPE)法によるZn(S,Se)系半導体のヘテロエピタキシャル成長層の高品質化への試みとして、超格子緩衝層を基板と成長層間に形成し、成長層の結晶性や物性に及ぼす超格子緩衝層の役割を明確にして高品質化への基本的知見を得ることを目的とする。OMVPEは常圧で、原料としてDMZ,DMSeおよび新S原料としてメチルメルカプタン(MSH)を使用、GaAs基板上に成長温度400〜500℃で成長実験を行った。得られた主な成果は次のとおりである。 1.DMZ-DMSe-MSH原料系を用いて500℃でGaAs基板上にZnSSe混晶を成長させ、原料供給モル比と固相組成比との関係を求めたところ、従来の原料系使用の場合に比べ、固相に於けるSの取込み効率が大きく、混晶成長にMSHが利用可能であることを示し得た。 2.1の結果を用いて、ZnSe-ZnSx【Se_(1-x)】歪超格子を周期をパラメータとして成長させた結果、比較的急峻性のよい超格子構造が作製可能なことを、X線回折及び透過電子顕微鏡観察結果より明らかにした。 3.上記歪超格子上にZnSx$$Se_(1-x)$$(0$$X$$>!〜$$0.04)を成長させ歪超格子緩衝層の周期や厚さに対する成長層のPLの変化を測定した結果、結晶上の改善及び不純物の低減の効果が存在することを実験的に明らかにすることができた。とくにGaAsとの格子不整が0.26%も存在するZnSeの成長において、歪超格子緩衝層が成長層ZnSeの特性改善に寄与することがわかった。 以上のことから、緩衝層はこのヘテロエピタキシーにおける結晶性の劣化や不純物混入を抑制する効果があることを示し得たが、よりその効果を明確にして物性制御のレベルまで拡張して行くためには、極薄膜多層構造の作製における成長条件の最適化と、混晶における組成制御性の一段の改善が必要であり、今後はこれらの点の研究を行なう。
|