本年度研究計画及び交付申請書に基き、パルスレーザーによる磁性半導体中の磁気相転移の実験に着手した。従来試みてきた物質は常磁性体が主で、今回興味ある電子スピンダイナミクスが期待できる磁気相転移温度付近まで試料を冷却する必要があったが、手始めにEuSの微結晶を用いて室温で円偏光レーザーパルスの照射によるスピン配向の検出を試みた。現在十分な信号強度で観測できていないが、本質的にスピン配向が生成しているかどうか見極める為に従来得られた時間分解能(約1+1秒)をさらに1桁改善することを試みた。これには購入備品の超広帯域増幅器が役立った。増幅信号を直接観測するにはこの時間領域ではサンプリング測定に頼らなければならないがそれにはパルス光照射の繰返し率を10Hz以上必要とするので現在この段階での改善を急いでいる。一方、磁性半導体の光励起の電子的挙動を発光測定により高い時間分解能で調べることはスピンの情報に対し相補的な知見を与えるので、そのための新しい分光法の開発も手掛けた。この点は計画当初に含まれていなかったが、従来の分光法にない利点をもつため急きょ行った。非線形光学結晶(よう素酸リチウム)を用いて強いレーザー光と共に半導体の過渡発光を入射させ、結晶中で光パラメトリック変換を行わせる。発光は短いレーザーパルスによる光ゲートと位相整合条件を満足するスペクトル成分が抽出されさらにパラメトリック増幅を受けるので、高い信号強度となってかつ赤外光が可視光に変換され観測される。この手法を確立するために色素溶液の発光を用いて詳しい実験を行った。その結果、約1000【cm^(-1)】の発光スペクトル成分を利得【10^4】、時間分解能10ピコ秒で変換できることがわかった(論文準備中)。これをEuS試料に適用すると共に、前述のスピン配向について時間分解能の改善を引続き次年度も続ける必要がある。
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