ある種の脂質を含ませた多孔質膜は、これを塩溶液に浸してその塩濃度をあげていくと、ある閾値Ctでイオンコンダクタンスが数桁も増加するという現象がある。またこの膜の一方の側の塩濃度をCtよりも大きく、他の側の塩濃度をCtより小さくすると、膜を挟む両側の溶液間にスパイク状の振動電位が観測される。今年度はまずディオレールフォスフェイトを含ませたミリポア膜について実験を行い、膜の両側の塩濃度に差を与えた場合、濃い方の溶液の塩濃度が上述のようにある閾値以上でないと発振は起こらないが、また余り大きすぎても発振が抑制されることを見出した。 そしてこれらの現象のすべてを、膜の表面でのイオンの吸着反応についての自己触媒作用を仮定したモデルによって説明することに成功した。すなわち溶液中の陽イオンが膜の細孔部に詰まっているディオレールフォスフェイトに一度取り込まれると、そこにできた中間生成物が別の陽イオンの取り込みに対して自己触媒的に働くと仮定すると、膜の表面近くのイオン濃度がある値以上のとき、自励的に取り込み反応が進行するというモデルである。この場合、急激な取り込み反応の進行によって膜の表面近くのイオン濃度がCt以下になると元の状態(低コンダクタンス状態)に戻るが、沖合いからのイオンの拡散によって膜表面の濃度がCtを越すと再び発火することになる。もしイオン濃度が余りに大きいと、自励的な取り込み反応が連続的に進行して膜は高いコンダクタンスの状態を維持し続けるため、スパイク状の発振は見られなくなる。さらに以上の現象をシミュレートする電気的等価回路として、S型のV-I特性をもつ負性抵抗素子とこれに並列につないだコンデンサーとからなる回路を用い、パルスは電流刺激に対するall-or-none応答や直流的刺激に対するスパイク状発振の挙動を明らかにした。
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