研究概要 |
極低温および高ひずみ速度下での材料の変形・破壊機構に関して微視理論的な基礎研究を行うことが本研究の目的である. 材料の変形応力に関しては, これまでに巨視的・微視的観点から研究が進められ, 転位の熱活性化理に基づいて, 降伏応力の温度・ひずみ速度依存性を説明できることが明らかになっている. 一方, 破壊じん性の温度・負荷速度依存性に関しては, いまだ実験的にも理論的にも明らかになっていない. そこで, 本研究では, 極低温および高ひずみ速度下での材料挙動を研究するために, 液体ヘリウム・クライオスタットを組み込んだ動的試験システムを開発し, 4Kから298Kの広範囲の温度の下で準静的から衝撃までひずみ速度を変えて低炭素鋼の降伏応力および破壊じん性を測定した. その結果, 破壊じん性は, 低温あるいは高負荷速度になるにつれて低下し, 脆性-延性遷移温度が負荷速度の増加に伴ってより高温側へ移ることが明らかになった. また, 破壊じん性は降伏応力の増大につれて減少しており, このことから破壊じん性とき裂先端近傍における塑性変形が密接な関係にあると推察できる. き裂先端近傍の転位の挙動に関しては, これまでにき裂先端からの転位の生成, および, 転位の堆積によるき裂先端近傍応力場の緩和などが報告されてきた. 本研究では, き裂先端からの転位の生成が熱活性化過程によって起きると仮定したモデルを考え, き裂先端近傍の転位の挙動を数値シュミレーションしてき裂先端近傍の真の応力場の強度と破壊の関係について検討した. この結果は, 破壊じん性の温度・負荷速度依存性の実験結果および脆性-延性遷移挙動と定性的に良く一致しており, 転位の生成の活性化エネルギと等価な速度パラメータにより破壊じん性の温度・負荷速度依存性を統一して説明できることが分かった.
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