本研究は、高速スペクトル計測法に基づいて、高温装置の実環境下における金属材料の熱放射性質を系統的に調べることを目的とする。複雑な実在表面の熱放射性質を、従来のようにひとつのふく射率で代表するのではなく、脈略をもって推移するスペクトルの過渡現象として把えるものであり、明確な実験的基礎に基づく点を特色とする。 まず、本研究の主要な実験装置である高速スペクトル計測装置を完成した。この装置は波長0.35〜10μmの近紫外〜赤外域のスペクトルを1.5秒ごとにくり返し計測できるものとなった。これを用いて、高温酸化過程における金属材料の反射スペクトルの過渡挙動を調べた。光学鏡面が酸化される際の鏡面反射方向反射スペクトルのみならず、その拡散反射スペクトル、さらには実用のあらい表面が酸化される際の拡散反射スペクトルにも、明瞭な光の干渉・回折現象とその推移が現れることが見出された。これは、多結晶金属が結晶粒ごとに酸化物薄膜をもち再結晶することに起因すると説明された。これらの現象は極めて系統的かつ再現性よく起った。これは、従来の、実在表面の熱放射性質は系統的には記述できないとする見解を否定する。 そこで、ひとつの実在表面モデルを提案した。表面は、多結晶の各結晶粒に対応する光の波長のオーダの面要素からなり、各要素は傾いてその表面には非平行薄膜をもつ。各要素における電磁波の干渉・回折を計算しそれを総合して、巨視的な表面の熱放射性質を求める。モデルの各パラメータの効果を調べる。それらの大きさの変化と実験で得られるスペクトルの過渡挙動との関係を検討し、(1)高温装置の実環境下における金属材料の熱放射性質の評価法を求め、さらに、(2)実験のスペクトルの挙動を解析して金属材料の表面における酸化被膜の成長・結晶粒径・表面あらさなどを診断する方法を研究している。
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