人工格子膜あるいは組成変調膜(周期的に組成の異なら原子属からなる膜)では、通常の薄膜では得られない性質が期待される。本研究では、磁性材料に特有であり応用上も重要な交換相互作用と磁気異方性に注目し組成変調膜の性質を調べた。その結果、Gd/Co人工格子における超格子スピンフロッピングやErCo組成変調膜における垂直磁化など興味ある現象を見いだした。 〈1〉Gd/Co多層膜に関する研究、真空蒸着法によるGdとCoを交互に室温基板上に積層したところ、周期19A以上ではx線小角散乱により周期構造が認められた。またオージェ電子分光によって膜中の酸素量を調べたところ、その量は少なくGdは金属として存在することが確かめられた。室温で飽和磁化は周期100A以下ではアモルファス合金の値にちかづいているが、100A以上ではCoのみの磁化の大きさに漸近した。磁化曲線は膜の磁化が面内にあることを示したが、周期150A以上の膜では、低温、高磁界のもとで、磁化が急増する現象がみられた。分子場近似による計算機シミレーションの結果この現象は超格子スピンフロッピングであることが確かめられた。 〈2〉ErCo組成変調膜の研究、スパッタ法による膜作成時に基板バイアス電圧を周期的に変組させることによって、膜厚方向に組成および構造の周期的変化をもった膜を作成することができる。ここでは既に報告されたTbCoのTbと4f電子雲の形状が対照的なErを用いた。ErCo合金は基板バイアスの有無にかかわらず面内磁化膜となるが、30〜60Aの周期でバイアス電圧を0/100Vと変化させたところTbCo組成変調膜の場合と同様垂直磁化膜が得られた。このことからCoも界面磁気異方性に関与していることが推定された。
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