M系列を基準信号としてハウリングキャンセラ内部より常時低レベルで送出し、その同期加算データを用いてADFの係数更新を行う方式(M系列の同期加算を用いた適応型ハウリングキャンセラ)を提案し、その基本特性について計算機シミュレーションにより検討した。その結果、マイク入力信号レベルと設定しきい値との比較によって判定する簡易的な音声検出器を組み合わせることで、エコー経路の小規模な変化に対しては特性を回復させることができた。但し、大規模な変化には追隨できなかった。どの程度の系の変化にまで追隨できるのかを明らかにすることは今後の課題である。 さらに、予じめトレーニング信号を送出してエコー経路を推定し、その後ADFの係数更新を止めるプリセット形ハウリングキャンセラをNTTのDSP(DSSP1)で実現し、上記の方式の基本となる同期加算の効果を実験で確認した。トレーニング信号のレベルを下げて同期加算したデータを用いて学習する場合と、大レベルのトレーニング信号を流し、そのデータを用いて学習する場合を比較し、トレーニング信号のレベルを下げて同期加算する方法でも係数が収束することを確認した。但し、同期加算する場合、エコー経路からの応答信号が低レベルになり、A/D変換器で有効に利用されるビット数が減少するため、量子化雑音の影響が大きくなり、推定の精度は良くなかった。μ-law等の非線形量子化を用いる方法等が考えられる。 以上のように同期加算を用いる方法の効果は確認されたが、上記の量子化器の問題等ハードウェアで実現するまでに幾つかの問題が残されている。来年度はよりハードウェアに近いレベルでの検討を行い、ハードウェア化を目指す予定である。また、エコーの回り込みのないイヤー・マイクを併用し、ハウリングを防止する方法についても新たに検討する予定である。
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