研究概要 |
振動子から放射される超音波は球面波として伝搬するため, その振幅は距離に比例して減衰する. このため, 通常のホログラフィーでは近傍の標的は明瞭に再生されるが, 遠方の標的はS/Nが劣化する. しかし, 複索振幅の周波数微分は距離に比例する因子をもつので, 遠方の標的像は強調され, 逆に近傍の標的像は抑圧される. この事実に着目して, 申靖者は周波数微分ホログラムマトリクスによる新しい超音波映像法を考案した. 周波数微分ホログラムマトリクスを計測するためには, 正弦波変調された搬送波を送信し, 受信側では位相検波した後, 正弦波変調信号で同期検波する必要がある. そのような送信・受信回路を製作し, コンピュータ制御の下で周波数微分ホログラムマトリクスを計測するシステムを試作した. 次に256個の搬送周波数に対して周波数微分ホログラムマトリクスを実測し, そのデータをフーリエ変換して標的の距離を計測する1次元の映像実験を行った. その結果, 送受信間の不要な直接結合の影響が除去できること, 伝搬損失の補正効果があり遠方の標的像が強調されること, 周波数応答をフーリェ変換する従来の方法と比較して約15dBのS/N向上が得られること, など本方式の利点が確認できた. 次に, 本方式を用いた断層像計測法を検討した. 1組の送信・受信超音波振動子を機械的に走査して周波数微分ホログラムマトリクスを計測する場合を想定して, 計算機シミュレーションを行った. 32個の素子をもつ擬似アレーと32個のステップ搬送波周波数を用いて周波数微分ホログラムマトリクスを計測すれば, S/Nの良い断層像が得られることが分った. また, 2次の周波数微分ホログラムマトリクスを計測すれば, 一様な再生像強度が得られることも分った.
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