本研究の目的は細胞運動の研究に対して新しいアプローチを与えることである。方法としては、磁気測定と画像処理とを併用する。本年度において、磁気測定による細胞内運動のエネルギーの大きさの推定に一応結果が得られ、また細胞の顕微鏡画像の処理についても、その道具立てはそろった状態になった。以下これらについてもう少し詳しく説明する。 細胞に磁性粒子と食作用を利用して取り込ませる。これを強い磁界で磁化すると、細胞から微弱な磁界が発生するようになる。この細胞磁界は、時間とともに緩和するが、これは細胞内の微細構造が運動するためである。この運動のエネルギーの大きさを推定する方法として、これらの磁化した粒子を弱い磁界によって整列させ、整列の程度を細胞磁界の大きさから測定し、整列を阻止しようとする細胞内運動のエネルギーの大きさを算出する方法を考案した。この方法によって、細胞の温度を低下したときや、細胞内ATP濃度を低下させたときの、細胞内運動のエネルギーの変化を推定した。この方法は、その基礎であるモデルの妥当性に大きく依存するので、今の段階で結論的なことを述べるのは危険であるが、細胞内運動のミクロな機構に対して、何らかの知見を与える結果も得られるのではないかと期待される。 顕微鏡画像処理について述べる。現在までに、顕微鏡TVカメラで撮影しビデオレコーダに記録した像を、大型計算機に処理させるシステムが大体完成している。処理方法については、これから主な研究対象となるが、2次元自己回帰モデルによる解析や、複数の像からの立体像の再構成などを研究している。特に後者については、細胞内に導入した磁性粒子の、細胞内における立体的な配置を、ある程度改良した像で観察できるようになった。これから、この方法をさらに改良して、生きている細胞の立体構造に迫りたい。
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