1.過疎地域の資源や自然・社会特性を最大限に活かす生産基盤の一つとし観光宿泊施設の経営成立性を取り上げた。その際、観光宿泊施設が零細な小規模経営とならざるえを得ないこと、専業経営か兼業経営かが経営成立性を判定する上でも地域所得への還元のインパクトを検討する上でも重要であること、短期的視点と長期的視点からのリスク・マネジメントが必要であることなどを考慮して経営分析モデルを開発した。ついで、このモデルを用いて各種の実証分析を行った。その結果、過疎地域の振興策の実行可能性を論じる上で以下のような有用な情報を得た。 2.経営規模の拡大に伴うリスクを考慮したとき、経営規模に概ね二つのしきい値があることを指摘した。すなわち、規模の拡大(所得の増大)につれてリスクの増大が顕著にみられる段階から、ある限界(第1のしきい値)を超えると規模の拡大(所得の増大)の割にはリスクが増大しない段階になり、さらにある限界(第2のしきい値=臨界規模)を超えると、規模の拡大の割には所得が増えずリスクの方が増大する段階にいたることが明らかになった。 3.このようにして示された臨界規模は、長期的な経営戦略をたてる上での重要な目安となる。また、自己資金の少ない零細企業主体に対しては、公的な資金援助を考える上でも、この臨界規模は一つの指標となり得ることが示された。 4.ここでは観光施設として宿泊施設を取り上げたが、観光地の魅力は各種の観光施設の経営が成立し、それらが一体となって形成されるものである。このような各種の観光施設の経営成立性に関する分析はここで提案した方法論を改良することによりアプローチが可能であると考えられる。
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