この研究の目的は、公営バス事業を対象として、需要動向と赤字原因を時系列的に追跡することである。61年度は研究の初年度にあたるため、まず全国の公営バス39団体について巨視的分析をおこなった。 バス事業ではおおよそ[運送収益=運賃×輸送人員]であり、収益の減少は主に輸送人員の減少による。そこで輸送人員の推移を検討してみた。地下鉄などを兼業しているとバス輸送人員がその影響を受けるため、今回はそうした団体を除外した。また、単位を[人]のままにすると路線の伸縮が反映するため、1キロあたり人員[人/km]に換算して扱った。 輸送人員がピークを示した時期には団体差があるものの、運賃の値上げが大幅・頻繁化しはじめた時点で衰退に転じている点では共通している。平均運賃(=年間運送収益/年間輸送人員)と輸送人員(人/年)との関係を吟味するに際し、ピーク時を基準年にとり、平均運賃Fの値上げ率X(倍)、輸送人員Dの減少率Y(%)をつぎのように定義した。添字Pはピーク年、60は昭和60年度を意味する。 X=(【F_(60)】-Fp)/Fp Y=(Dp-【D_(60)】)/Dpピーク時を基準にした根拠は、ピーク年の値上げがいわゆるインパクトとして作用し、以後の推移を規定していると思われたためである。 XとYの間には、つぎのようなかなり明瞭な直線相関が存在する。 Y=2.14X+32.5 (相関係数0.76) この式からまず第一に、バス離れは運賃の値上げに左右されることがわかる。そして第二に、Y切片32.5という数字から、値上げが無かった場合でも輸送人員は約30%程度の減少をみたであろうと推定される。結局、収益を維持するための値上げは、反面では輸送人員を減らし、その効果を相殺することが実証的に確認された。
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