京都市内の街並み保存地区に指定されている地域で、居住者に対して質問紙調査を実施し、音環境に対する意識調査した。その結果、うるさいと思う音、嫌いな音の筆頭に自動車、オートバイの音をあげる人が大多数であることが知られた。しかし、同時に、自動車を保有する家庭も多く、地域内に自動車の音の発生するのは、やむをえないとの回答が多数を占めた。多くの人は、好きな音として、鳥の声などの自然の音をあげたが、からすの鳴き声は、嫌いな音の上位にあげられている。からすの鳴き声は、縁起の悪い音ともみられている。また、地域の特徴を示す音(サウンドマーク)は、寺の鐘の音と考えている人が多かった。質問紙調査と平行して行った騒音レベルの測定結果では、鐘の音のレベルはピークで約40d.Bであった。すなわち、鐘の音は、かろうじて聞きとれる程度のレベルであるが、人々に強い印象を与えていることが知られる。以上の調査を総合すると、騒音意識とは、騒音レベルのみによって決定されるのではなく、音環境全体の中での文脈、あるいは個々人の生活・文化の背景の上に付与される意味によって決定されるものであると推定される。この点については、約60種類の各種生活環境音を50名の被験者に聞かせて、大きさ、うるささ、不快感の評定尺度実験を行った結果によっても支持される。すなわち、大きさの判断は、ほぼ騒音レベルによって決定されるものの、不快感の評定値は、ほとんど騒音レベルとは相関がなく、音のもつ意味が決定的に重要な因子として作用していることが明らかとなった。 騒音の意識に関する研究は、今後、音環境を風景としてとらえるサウンドスケープ調査にもとづく必要があると結論された。
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