数十年に一度のような激震を鋼構造物が受ける場合の溶接接合部の強度や変形能力などの要求性能を明らかにすることは耐震安全性の面から非常に重要なことの一つである。溶接接合部は大きな応力集中やひずみ集中を受けることは周知の事実である。また溶接部はエンドタブや裏当金などの切欠きや溶接欠陥などの形状的不連続部が存在し一層応力集中やひずみ集中を助長する結果となっている。激震時に想定される変位まで接合部が変形した場合、鋼板と溶接部にどのような力学的性能と破壊靭性が要求され、その要求性能は溶接欠陥長さとの関連でどのように変化するのかを接合部の形状や部材寸法と関連して決定するための基礎資料を提示するために研究を進めている。本年度の研究内容は以下に列記する項目に分かれている。 1)鋼材及び溶接熱影響部((HAZ)、BOND部分の破壊靭性試験を3温度(室温、0℃、-20℃)で変位速を2種類(40cm/sec、0.01cm/sec)変化させて行った。その結果、遷移温度以上の温度では動的載荷の方が静的載荷に比較し、大きな靭性値になるのに対し、遷移温度以下の温度では動的載荷の方が小さな値を示すなど興味深い知見が得られた。 2)接合部のモデル試験体として溶接欠陥や裏当金による切欠きなどを有するT型引張り曲げ試験体を用い、3温度(室温、0℃、-20℃)で変位速度を3種類(25cm/sec、0.25cm/sec、0.0025cm/sec)変化させた破壊実験を行った。その結果、溶け込み不良で人工的に作った欠陥や裏当金による切欠きよりも溶接部の靭性値の方が破壊に大きく影響することや動的破壊靭性の遷移温度以下で動的外力を受ける場合は静的載荷に比較し著しく変位能力が劣化することなどが明らかになった。 これらの実験結果を踏まえ、今後の研究を進める予定である。
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