本研究は、地盤あるいは「地震基盤」よりも深い、地殻又は上部マントル中に於ける地震波動伝播特性が、地表に建つ構造物への入力地震動特性に如何なる影響をもたらすかについて、関東地方及びその周辺域で発生する地震を対象として検討したものである。そこで本研究に用いた一次資料は、南関東の東松山・小川・館山・銚子・大洗及び伊豆半島修善寺において1978年以来継続している岩盤強震アレー観測によるおよそ4千成分の加速度時刻歴記録であるが、これらの全ての記録について周期特性解析(応答スペクトル解析)を施し、これを基礎資料として前述の広域地域特性の抽出を試みた。具体的には、ここに計算したそれぞれの応答スペクトルによって各地震動の強さを評価し、これに武村らによって近年提案された距離滅衰式を当てはめ、その実験式の係数のブロック毎による相違から、各震源と各観測点との間の地殻・上部マントル中における地震波動伝播特性を抽出し、その結果を既往の地震学的研究成果、特に近年の関東・東海地域に於ける地震予知事業に関連した東京大学や国立防災科学技術センター等による3次元速度構造の諸研究成果と比較対応することによって、その物理的意味と工学的意義を示さんとした。その結果、これ迄に得られた幾つかの知見を列挙すれば、北信地域に発生した極浅発地震による関東地方での地震動特性は、平均よりは振幅がかなり大きくなる傾向が認められるのに対し、逆に福島県沖に発生する浅発地震や茨城県沖・福島県沖で発生するやや浅発地震ではむしろ小さめの振幅になるなど、無視しがたい傾向がみとめられる。これらの傾向は、前記3次元速度構造モデルとおおむね対応するものであり、この地域における深い地下構造の特性を反映したものと考えることができよう。但し、その定量評価及び工学的意義の確定には、更に他の多くの伝播経路に沿う観測データの蓄積が必要である。
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