わが国の夏季の気候は高温多湿である。そのような環境下で形成された 伝統的な住居造りの重要な要素の一つとして通風が挙げられる。しかしながら都市化 の進行する中での住居造りに通風を採り入れることが段々と困難になってきている。 筆者らはそのような点に着目し、都市の中に建つ住宅について実測を行い、その結果 を基に風洞実験で更に詳細に検討した。1.市街地の風の構造は複雑であり、通風条 件を悪化させている。係留気球を用いて市街地の代表的な地点で風の観測を行い、風 速および乱れの強さの垂直分布について有用なデータを入手し、住宅へのアプローチ フローの構造を解明した。 2.上記のアプローチフローを風洞内に作成し、集合住宅群および戸建住宅群の 模型実験を行った。通風の駆動力となる壁面風圧係数差と容積率 (建物密度) の関係 として、容積率が大きくなると通風の駆動力が小さくなることが明らかとなった。こ の結果は建築計画を進める上で重要な示唆を与えるものである。特に中、高層の集合 住宅群の計画に有用である。 3.戸建住宅は一般に都市郊外に建つため、都市内の集合住宅に比べて通風環境 は良好であるが、敷地面積が小さくなると通風条件は悪化することが認められた。さ らに宅地の区割りの計画については、その地域の風の特性を十分に検討し、建物群の 配置を考えねばならない。 4.開口と室内の気流分布を風洞実験で検討する場合、風洞の大きさに制約され て (閉塞率) 実験模型が大きくできない悩みがあるが、風洞の外に室模型を設置し、 風洞気流をそれに吹き付けることにより室模型を大きくすることができた。さらに室 内気流の分布はアプローチフローの乱れの強さに大きく影響されることが明らかとな った。これ等の成果は住宅の通風設計に利用できるようにしなければならない。
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