本年度は、来年度の本調査に先立ち、特に昨年暮に成立した「住宅・計画法」に関する資料収集と分析を行った。本法律は、公共住宅民営化政策(Right to Buy)を従来の個々の入居世帯への払いさげから、民間企業や非営利法人などへの団地一括払い下げを可能とする段階へ加速化する意味で一つの画期をなすものであり、昨年1年間に亘ってイギリス全土で激しい論争がたたかわされた内容を含んでいる。つまり、公共住宅の入居者への払い下げに関する権利を明確にした「1980年住宅法」は、当初年間20万戸に達する払い下げ戸数を達成したが、その後売れゆきが次第に低下するにおよんで、より大規模な売却を可能にする手段として導入されたのが、「住宅・計画法」であったからである。この法律の最大の問題点は、払い下げを望まず借家人として居住を続けることを希望する入居者が、払い下げの対象となった団地から半ば強制的に立ちのかされることであり、借家人組合をはじめ全国の住宅運動団体から借家人の居住権を否定するものとして厳しい批判にさらされた。 したがって、イギリスの公共住宅の払い下げ政策は、厂史的にみると(1)自治体のイニシャチブに基いて行われていた「1980年住宅法」以前、(2)払い下げが入居者の権利となった「1980年住宅法」以後、そして(3)民間企業やその他の団体に団地が一括払い下げされることが可能になった1986年の「住宅・計画法」以降の3段階に区分されることとなった。昭和62年度は、イギリス全土の約450市町村に対して、この公共住宅払い下げ政策がどのような実態と問題点をもって展開しつつあるかを直接にアンケート調査をする予定である。
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