1.昨年度回収したイギリス地方自治体の住宅政策に関するアンケート調査の分析によって、サッチャー政権の公共住宅払い下げ政策は、保守系および労働党の地方自治体によって賛成・反対の態度は大きく異なるものの、それが成功したか失敗したかの評価については、保守・労働党系を問わず「成功」と見なしていることが判明した。 2.その理由としては(1)イギリスの公共住宅の多くが、大都市部を除いては「庭付の接地型郊外住宅」であり、居住者の持家化への希望が従来から非常に強かったこと、(2)最低3割、最高7割もの大幅なディスカウントが行われ、かつ購入資金の金額を自治体がローンとして保障したこと、(3)払い下げを受けた後5年間を経過すれば、転売が自由であること等、居住者に大きな利益をもたらすものであったためである。 3.その一方、移民労働者や低所得者など社会的経済的弱者を中心に、(1)現在居住している公共住宅が高層アパートで魅力がない、(2)購入できる資金を用意できない、(3)払い下げを受けても十分維持管理していける条件がない等の理由で反対の声が上ったが、これらの声は中央政府はもとより、地方自治体でもあまり考慮されていない。 4.アンケート分析と平行して、「1987年住宅政策白書」および「1988年住宅法案」に関する資料収集と分析を行ったが、中央政府はこれまでの公共住宅民営化政策に大きな自信を得て、(1)払い下げを更に拡大するため「団地一括払い下げ制度」を創設し、民間企業が払い下げを受けられるようにする、(2)居住者が組合をつくり、団地管理を民間業者や協同組合に委託できるようにする、(3)地方自治体とは別の「住宅再開発公団」をつくり、荒廃化した団地やスラム住宅地の再開発を民間企業と共同して行えるようにする、との方針が提起されている。
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