研究概要 |
従来, 合金の局所的原子配列を調べるための研究は, 単結晶試料からの散漫散乱強度をフーリエ解析し, 合金構成原子間の相関を表わす短範囲規則度を得るという方法が一般的である. しかしこの方法は原子配列に関する直接的な知見を得ることができない上に, 散漫散乱の測定を必要とする範囲が広いために莫大な測定時間を必要とする. しかしながら, 侵入型合金中の格子原子がクラスターを形成している場合には, 格子間原子の占有可能な格子内位置が指摘されているために, クラスターに対する可能な構造模型の数が限定されるので, 予想される格子間原子クラスター模型に基づいて計算された散乱強度と実測された散乱強度とを直接比較することにより格子間原子クラスター内の原子配列の決定が可能であると思われる. 本研究は上述の解析原理に基づく格子間原子の配列分布状態を決定する方法を検討することを目的として, NbおよびTa中に侵入固溶した窒素原子による中性子散乱の検出を試みた. 用いた試料は高温(800〜1200°C)より焼入れたNbN0.01およびTaN0.03組成の単結晶および多結晶である. 高エネルギー物理学研究所の中性子小角散乱装置(SANおよびWIT)において, 散乱ベクトルが0.02〜0.3A^<-1>の範囲内で散乱強度の測定を行った. 実測された窒素原子による散乱強度は散乱ベクトルの増加と共に減少する傾向が認められた. 特に, Ta中に固溶した窒素による散乱強度は散乱ベクトルQ〕SY.simeq.〔Oの近傍では窒素原子がランダム配列した場合の散乱強度(ラウエ単調散乱)の10倍の強度が観測され, 約10個の窒素原子がクラスターを形成していることが示された. Nb中に固溶した窒素の散乱はQ〕SY.simeq.〔0.1〓近傍ではほぼラウエ単調散乱と同程度であり, クラスター構造を解析するためには単結晶による詳細な測定が必要であろう.
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