固体の融解は表面から始まると考えられている。最近、フレンケルらは鉛(110)表面の高速イオン散乱実験を行い、融点より20℃も低い温度で表面の融解が起り、融点に近づくにつれて融解層が厚くなり、融点では試料全体に及ぶことを初めて実験的に確かめた。 反射高速電子回析を用いると、ブラック反射の消失から高速イオン散乱実験と同様に融解による表面の構造の無秩序化を検知することが出来る。この他に、散漫散乱の強度分布から無秩序層内にまだ残っている原子配列の短範囲秩序も調べることが出来る。このような優れた特性を有する反射高速電子回析を用いて、清浄化された鉛(110)表面を昇温しながら観察することにより次の3つの結果を得た。(1)昇温しながら(00)反射と(10)反射の強度を測定すると、(00)反射は融点迄緩やかな強度の減少を示すだけであったが、(10)反射は180℃附近から著しく強度を減じ、菊池図形がまだ観察されるのに305℃で見えなくなった。(2)融点から約1℃低い温度で菊池図形が見えなくなった。(3)305℃以上の温度でシャドーエッヂ近くに散漫散乱が観察された。 (1)と(2)から鉛(110)表面の構造に180℃を越すと乱れが起り、昇温と共にその乱れが著しくなり、融点より22℃低い温度で表面が無秩序化すると結論さる。菊池図形が見えなくなることは無秩序化が結晶内部迄及んだことを意味する。表面融解層の構造の特性を明らかにするために散漫散乱の強度測定と表面修飾による散漫散乱の特性変化の実験を現在、準備中である。
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