研究概要 |
マルテンサイト変態の機構に関しては, 「現象論」と呼ばれる優れた結晶学的理論があり, 多くの合金系に適用されたが, 理論と実験との詳細な比較を行うと, すべての点で良い一致の得られるのはごくまれであり, 最近迄現象論の適用性に疑問が持たれていた. 変態の際不可欠の格子不変変形は, 従来第2種双晶と信じられていたが, 最近筆者等はCu-Al-Ni合金で第II種双晶を見出し, 第II種双晶を格子不変変形として現象論の再検討を行うと, 理論と実験の間に, あらゆる点で極めて良い一致のあることを明らかにした. 同様にTi-Ni合金の格子不変変形も第II種双晶であることを明らかにした. そこで本年度は合金系を更に広げて, Cu-Sn合金, Ag-Cd合金及びAu-Cd合金についても再検討を行った. その結果, 結論を先きに言えば, Cu-Sn合金の格子不変変形はやはり第II種双晶であったが, Ag-CdとAu-Cdの格子不変変形は従来の報告通り, 第I種双晶であった. Cu-Sn合金については, 従来第I種双晶を格子不変変形とする詳しい解析があったが, 理論と実験の不一致をどうしても解消することができなかった. しかし今回我々は, X線回折により格子不変変形は第II種双晶であることを明確にすると共に, 第II種双晶を格子不変変形とすれば, 晶癖面, 双晶面, 結晶方位関係の全てに亘って理論と実験の間に極めてよい一致のあることを明らかにすることができた. 又この結果をもとに, この合金特有の"桧型モーホロジー"をよく説明することができた. 以上により, マルテンサイト変態の際の格子不変変形は, 合金系によって, 第I種双晶のものと, 第II種双晶のものとどちらも存在することが明らかになった. また格子不変変形を正しく選べば, 「現象論」が種々の合金系によく適用できることが明らかになった.
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