温度298Kの塩酸-塩化第二鉄、塩酸-塩化第二銅及び塩酸-塩化ニッケル混合水溶液の水の蒸気圧を輸送法を用いて測定し、得られたデータに基づいてこれら水溶液系の水の活量を決定した。水の活量の測定値を用いて、二種類の塩化物を含む混合水溶液の水の活量を推定するRobinsonとBowerの式の上記水溶液系への適用性を調べたところ、塩酸-塩化ニッケル混合水溶液においては上式により十分な精度で水の活量の推定が可能であった。一方、塩酸-塩化第二鉄および塩酸-塩化第二銅混合水溶液においては水溶液のイオン強度を計算するにあたって、第二鉄イオンあるいは第二銅イオンの塩素錯体の生成反応を考慮に入れるなら、RobinsonとBowerの式により精度よく水の活量の推定が可能であることを明らかにした。 上記の輸送法を用いた実験によって決定した水の活量値からこれら水溶液系の水の等活量線を求めた。この水の等活量線のデータに基づき熱力学的関係式であるMckay-Perringの式を用いて、各水溶液系の塩酸の平均活量係数の計算を行なった。平均活量係数から計算される塩酸の活量値は、塩酸濃度一定の条件下では塩化物の添加ととも増大する。その程度は塩化ニッケルを添加した場合が最も大きく、塩化第二鉄あるいは塩化第二銅を添加した場合はほゞ同様な増大の程度であった。本研究で得られた結果をすでに報告のある他の系の比較した所、塩化ニッケル系は塩化マグネシウム系とほゞ同じ塩酸活量を示し、塩化第二鉄あるいは塩化第二銅系は塩化ナトリウム系のそれと同様な挙動を示すが塩化カドミウム系よりは大きな塩酸活量を示すことが明らかとなった。このような一定塩酸濃度の下で塩化物の添加のため塩酸の活量が増大するのは水和理論に基づく定性的な説明が可能である。又、塩物の種類による塩酸活量の挙動のちがいは水溶液中での安定な塩化物の形によってほゞ決定されるものと考えられる。
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