研究概要 |
スパッタリング法によれば、エネルギーの高い気体状態から急冷されて物質が形成されるので、通常の方法では得られない優れた磁気特性、触媒作用を示す非平衡合金が作成される。しかしこれらの合金は本質的に準安定であるため、実用化するには熱的安定性の改善が必要である。本研究においては、赤外線加熱炉を用いて非平衡合金を熱処理し、その前後での構造、物性の変化、並びに示差走査熱量計による非平衡相の相変化の様相を調べ、実用性に優れた新機能材料作成のための基礎的知見を得ることを目指している。スパツタ合金試料についてX線構造解析、磁気及び熱量測定を通して、次のような点が明らかになった。 (1)Fe-Cu,Fe-Ag2元非平衡結晶合金、Fe-Cu-Ag3元非晶質合金は優れた軟磁気特性(保磁力が約1Oe)を有し磁束密度も高いが、Fe-Cu,Fe-Ag合金は300℃以上の温度に加熱すると相分解する。Fe-Cu-Ag非晶質合金の結晶化温度はさらに低く約130℃である。 (2)Fe-Ti非晶質合金は、水素吸蔵性、水素選択透過性に優れている。熱的にも約700℃以下の温度範囲で安定であることから実用化の可能性が高い。 (3)Fe-Pd bcc合金においては、Fe原子磁気モーメントが増大し、また軟磁気特性(保磁力が10Oe以下)を示す。非平衡構造は300℃以下の温度では保持され、軟磁気特性も改善されるが保磁力はたかだか5Oe程度までしか低下しない。一方、500℃で熱処理すると、現在面内磁気記録媒体として用いられているCo-Ni合金膜と同程度の保磁力(500Oe)、飽和磁束密度が約2倍(18kG)の磁性材料が得られる。 尚、現在これらの合金の熱処理に伴うEXAFSスペクトル、並びに、線光電子分光スペクトルの変化を測定しており、局所原子配列、電子構造の変化について検討する予定である。
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