研究概要 |
本年度は, 昨年度に引きつづき, 多層盛溶接熱影響部に形成される低靱性域の影響を少なくすることにより溶接部の品質のいっそうの向上をはかるという方面で実験, 検討を行った. この際, パスごとに溶接条件を変化させると, 低靱性域の存在量が変化すると考えられ, このことを利用できる可能性もあることに着目した. そこで, まず異なる入熱量でビードを重ねた場合の低靱性域の靱性を再現熱サイクル材を用いて検討した. つづいて, 多層盛溶接熱影響部に形成される低靱性域の量に及ぼす溶接条件の変化や開先角度の影響を検討するためにパーソナルコンピュータを用いた単純化したシミュレーションを試みた. 得られた主な結果は次のようである. 1.小入熱(800〜500°Cの冷却時間が10秒程度)のビートの次に重ねるビードとしては, このビードよりも入熱量が大きい方が低靱性部の靱性は良好であった. しかし, 第一ビードが大入熱であれば, このような現象は生じなかった. 2.第三ビードとして焼もどし熱サイクルがかかった場合には, 実験に用いた入熱条件の組み合せでは, 低靱性域の靱性にはほとんど差がなくなった. すなわち, 焼もどし熱サイクルがかかると考えられる場合には, 溶接熱影響部に形成される低靱性域の量のみを問題にすればよいことになる. 3.上記のいずれの場合にも, 低靱性域の溶移温度は室温以上であり, 溶接熱影響部においては, できるだけこれの存在量を少なくする必要がある. 4.デジタイガによりビードならびに熱影響部の形状をパーソナルコンピュータに取り込み, これをディスプレイ上で積み重ね, 溶接熱影響部に形成される組織分布を色分けして表示させることにより, 低靱性域の分布状況を見きわめるシステムを試作した.
|