本研究では、多層盛溶接熱影響部における組織分布を制御することにより継手の靱性を向上させる方法を考えるための基礎的資料を得るための検討を行った。その経過と結果をまとめると次のようである。 1.溶接部の各組織からの破壊の発生特性を調べるための疲労予亀裂長制御装置ならびに計装化シャルピー試験システムを開発、製作した。 2.ついで、これを用いてHAZ粗粒域に存在する三種の組織、すなわち、フェライト・オーステナイトの2相域に再加熱されて生成された組織(Iの組織)、オーステナイト温度域に再加熱されるものの炭素濃度の不均一等により焼入性の低い組織(IIの組織)ならびに焼入性の高い組織(IIIの組織)に予亀裂先端を位置させた試験片について計装化シャルピー試験を行った。その結果、IIの組織から最も破壊が発生しにくく、ついでIIIの組織で、Iの組織からはきわめて脆性破壊が発生しやすいことが確認された。 3.溶接入熱ならびに開先角度を変化させたビードのHAZ粗粒域の種々の位置に予亀裂先端を位置させた試験片について計装化シャルピー試験を行い破壊発生エネルギーの分布を求めた。その結果、一般的には低エネルギーの試験片と高エネルギーの試験片との二つのグループが存在したが、大入熱と小入熱を交互に積層したビードでは低エネルギーから高エネルギーまで連続的に分布し、その結果、低エネルギーで破壊が発生する確率が低下することがわかった。この原因について、HAZの組織分布を簡単な熱伝導式に基づいて検討した結果、組織分布の変化よりも後続ビードによる焼戻し効果の影響の方が大きいと推測された。 4.開先角度の影響については本研究の範囲では明確にはできなかった。 5.このような結果により、今後は組織分布の制御は焼戻しのかけ方と総合して検討していく必要がある。
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