本研究においては、第2成分の存在によって観測れさる振動光学活性の測定を左右円偏光に対するラマン散乱強度の差の測定に基くラマン光学活性法(ROA法)により試み、それにより構造化学的、生物化学的情報を得ることを目的として行なった。まず第1に、シクロデキストリンやタンパク質のようなキラルな部位をもつ分子とアソ色素との間の包接現象により色素に誘起される振動光学活性の測定に成功した。すなわち、色素とコンゴ-レッドおよびベンゾパ-プリン4B、キラリティ-を与えるものとしてγ-シクロデキストリンの包接系について色素の共鳴ラマンスペクトルについてROAを得ることができた。そして、これらの結果からこの包接系に関する情報を得ることができた。また、タンパク質として牛血清アルプミンをキラリティ-を与えるものとして選び、化学プロ-ブとしてトリパンレッドの共鳴ラマンスペクトルに対応するROAの測定に成功した。2種の色素に誘起されるROAスペクトルのバンドが異なることからシンクロデモストリンとタンパク質で色素と相互作用する部分が異なることが明瞭に分った。次に、SERS(Surface Enhanced Raman Sed#sring)とROAを結びつけて、アノミ酸-銀複合体の振動光学活性をROAで研究した。SERSにおいてはラマン強度が増大するだけでなく、左右円偏光に対するラマン散乱強度の差が大きくなるという理論があるが、実験的検討は未だなされていなかった。そこで、銀コロイド溶液中の各種アミノ酸のSERSおよびROAスペクトルを測定したところ、L-フェニルアラニンで△(=(I^R_E+E^L_E)/(I^R_E+I^L_E))が×10^-程度のROA信号が得られた。これは、稀藻溶液のROAを測定する1つの新しい方法論を提供すると同時にSERS効果により△値が増すという確証は得られなかったことを示す。なお、理論的、実験的検討が必要であろう。とにかく、これは初めての実験である。
|