研究概要 |
気相合成により作製された非晶質薄膜は、IC,センサーなど広い応用面をもち、その物性と構造の関係が注目されている。薄膜の構造解析には電子線回析が適しているが、基板に固着したままでは測定できない。X線回析には試料が薄すぎる場合が多いが、薄膜用アタッチメント(TFD装置)を取り付けることにより、普通のX線回析装置で基板に固着したままの薄膜の測定が可能となる。これは低い入射角で薄膜試料にX線を当て、受光系のみをスキャンする形で回析パターンを測定するものである。この方法はまだ測定データの規格化などデータ処理の方法が確立していない。光学系を綿密に解析して強度曲線を規格化する式を導き出し、実測曲線に適用したところ、通常の2θ-θディフラクトメーター法で測定した強度と完全に一致する強度を得ることが出来た。このTFD方式で測定を行えば、通常の2θ-θディフラクトメーター法での測定と比し、1/10〜1/20薄い薄膜試料の回析を基板の影響を受けることなく測定できる。この方法の応用として、エレクトロクロミック素子として注目されている非晶質【WO_3】薄膜を取り上げた。この薄膜を2種の方法で作成し、TFD法による測定を行い、その構造を解析した。一つは抵抗加熱法により作成した厚さ8.5μmの淡青色の蒸着膜、他は電子ビーム法により作成した厚さ5.38μmの無色透明の蒸着膜で、共に非晶質である。構造解析は当研究室で開発したpair function法を用いた精度の高い方法で行った。その結果抵抗加熱法で作製した試料は7個の【WO_6】八面体の周囲を12個の【WO_4】四面体がとり囲んだ球状分子の集合体であることが分った。一方電子ビーム法で作製した試料は、【WO_6】八面体の三次元ネットワークの一部を【WO_4】ユニットが置換した構造をとっている。このように非晶質薄膜は、その製法により、物性だけではなく、構造もかなり異なることが明らかになった。
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