研究概要 |
生体は, 膜を使うことにより, 様々な発振現象を発現させている. 神経の興奮・心筋の拍動・脳波・サーカディアンリズム等, いずれも生体膜が本質的な役割を果している. 本研究は, このような生体膜の機能を, 人工的に構築したリン脂質二分子膜系で再現することをめざした. 具体的には, 安定なリン脂質薄膜を作製する方法の確立と, リン脂質膜の電気的非線形特性を計測することが, 実験上の課題であった. いずれも, 下記のように, 基本的な成果を得ることができた. 二年間の本研究は, ニュートロ・コンピュータなどの人工神経系を作っていく上での基盤を築いたものとして, 重要な意味をもっていると考えている. (1)安定なリン脂質薄膜作成法の確立. ラングミュア・ブロジェット法(LB法)により, ミリボア・フィルター上に, リン脂質薄膜を固定する方法を確立することができた. 従来は, 径が約1mm程度の穴に張る, いわゆる黒膜法があったが, 本研究の結果, 一挙に膜面積が百〜千倍程度の, 安定なリン脂質膜が得られる手法が確立した. 電気的測定以外に, 走査型電子顕微鏡による観測からも, 安定なリン脂質薄膜が得られることを確認している. (2)上記の方法で作製した, リン脂質薄膜の電気的特性を調べた. その結果, 0.5M以上の塩濃度の水溶液に膜を浸すと, 電気伝導度のゆらぎや発振がみられることが分かった. 特に, 等濃度のNaClとKCl水溶液で膜をはさんだときに, 自発的な電位振動がみられたが, このことは, 神経膜の特性と類似しており, 大変興味深い. さらに, 黒膜法と, ピペットクランプ法による膜についても, 電気的測定を行なった. これらの膜の, 電気信号のゆらぎをフーリエ解析することにより, リン脂質膜自体が, イオンのゲート作用を有していることが明らかとなった.
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