本研究では、報告者が開発したチトクロムCの速い電子移動が可能な高機能修飾電極を用いて、チトクロムCおよび関連蛋白質の生化学的および生物電気化学的性質を解明するとともに、当該生体分子機能電極と蛋白質との相互作用を分光学的手法を用いて分子レベルで解明することを目的とした。得られた成果の概要は下記の通りである。 1 生体分子機能修飾電極を用いたチトクロムCの電子移動反応: 筆者が開発した6-メルカプトプリン修飾金電極は、pH2.5程度の酸性溶液中まで機能し、チトクロムCと電極との電子移動反応を測定することができる。この電極を用いて、チトクロムCが本来の中性型構造から酸性型構造に変化する途中に、pH4〜3付近に中間型が存在することを電気化学的に検出した。これは、平衡電位の変化および、平衡電位の温度依存性によって特徴付けられる。分光学的手法を組み合わせた測定などから、この中間体はヘム鉄にメチオニン80のイオウ原子が配位しているが、この配位の程度が蛋白質の構造変化に伴って変わったものであることが示唆された。この構造変化は弱アルカリ性溶液中でのそれと類似しており、共存アニオンの効果や、平衡電位の温度依存性に共通の性質が認められた。 2 チトクロムCの速い電子移動を可能にする電極表面吸着種の中で、セミカルバゾールおよびシステイン系化合物の吸着状態をSERS法等の分光学的手法で精査し、イオウ原子の重要性及びチトクロムCとの相互作用の一部を解明した。詳細は現在なお検討中である。 3 機能性修飾電極を用いて、チトクロムCとチトクロムオキシダーゼの蛋白質分子間相互作用を電気化学的に精査し、P-L-リジンの反応抑制機能、酵素反応に及ぼすpH及び温度などの影響を解明するとともに、電気化学的に呼吸鎖末端モデルを形成できた。
|