研究概要 |
近年, 炭素陽イオンの化学が不安定中間体から安定なイオン種に至るまでその学術体系を整えつつあるのに対して, 完全に解離したイオン種としての炭素陰イオンの構造化学的研究には未だ開拓の部分が多い. 本研究では典型的なヒュッケル系炭素陰イオンである. シクロペンタジエニド陰イオンう広いπ電子系に組み込むことにより数種の新しい安定炭素陰イオンを合成し, その電子的性質と構造との関連を明らかにした. さらにこれを用いて理論的に興味のある中性またはイオン性の新しいπ電子システムへの変換を行なった. 具体的な成果を以下に要約する. 1.アセシクロンから4段階の反応により, シクロペント〔a〕アセナフチレニド陰イオンのジ及びトリフェニル置換体Ia, bを新たに合成した. その性質を詳細に検討した結果Iは新しい有機金属配位子としての有用性が期待でき, その応用面についてさらに検討を続けている. 2.陰イオンIaとトロピリウムイオンとの共有結合生成物から, 強い分子内電荷移動相互作用をもつ安定炭素陽イオンIIが得られることを見出した. さらにIIから, 電子過剰型πドナーとしての特徴的性質を示す新しい交叉共役型π電子システム, セスキフルバレン誘導体の合成に成功した. 3.3個のジベンゾフルオレニリデンメチル基がシクロペンタジエニド環と交叉共役的に結合した新しい平面系炭素陰イオンIIIの合成に成功した. IIIはPH>3.3の酸性DMSO水溶液中においても全くプロトン化を受けず, 現在知られている最も安定な炭素陰イオンの一つであることが明らかとなった. 4.陰イオンIIIと当研究室で先に合成された種々の安定炭素陽イオンとの反応を行い, 炭素と水素のみからなるイオン結晶即ち炭化水素塩の数種を新たに合成した. これにより炭化水素塩合成の構造要素を大きく広げることができた.
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