研究概要 |
アミノ配糖体抗生物質は臨床上重要な抗生物質群を形成し, その構造と活性との相関について, 新しい抗生物質の創製の立場から数多くの研究が行なわれてきた. このような基礎研究に立脚したアプローチによって有用な多くの抗生物質が開発されてきた. 本研究は, この群の抗生物質の最も簡単な一つであるトレハロサミン類を取り上げ, これらに新しいタイプの化学修飾をほどこし, これら抗生物質群の構造一活性相関が別の面から究明することを目的としている. トレハロサミンは, D-グルコースとD-グルコサミンが二糖類トレハロースと同様な結合形式で結合した非還元性二糖であり, 結核菌に著効を示す. ここで, 構成単糖の一方をそれぞれ擬似糖質で置き換えた擬似二糖類を合成した. これらの生理活性を調べることによって, ピラノース環の環酸素原子の役割が解明できると考えた. まず, D-マンノースとD-グルコサミンとからなるトレハロサミン類似抗生物質の擬似二糖を二種合成した. α-グリコシド結合をもち, 天然物質と同じ絶対配置をもつにもかかわらず, これらは全く生理活性を示さなかった. つぎに, トレハロサミンのD-グルコース部を擬似DあるいはL-グルコースで置き換えた擬似二糖を合成したところ, 天然物と環酸素原子の有無のみに異にする化合物は, その約25%の活性を保持していることが明らかとなった. この事実は, 環酸素原子を欠くシクロヘキサン環をもつ類似体の中には, 活性を保つものがあり, 新しい化学修飾の方法として擬似糖質の導入が有用であることを明らかにしている. 本研究では, トレハロサミンの合成に関連する2糖として, トレハロースの擬似類似体の立体異性体8種を合成し, 酵素トレハラーゼに対する活性阻害, アミラーゼに対する基質としての意義などを検討することができた.
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