研究概要 |
アクリジニウム塩のアルコール中における熱および光反応の機構を解明することにより, アクリジニウム塩を新しい触媒として利用する方法を開発せんと研究を計画した. まず, 10-メチルアクリジニウムクロリド(MAC)のメタノールとの求核付加反応を見い出した. MACは極めて求電子性に富み, 弱い求核剤の付加を9位に受け, メタノール付加体を生成した. 次にこのメタノール付加体が光照射されると, 光ヘテロリシスを受け, 10-メチルアクリジニウムメトキシドを与え, さらにこのイオン対内でのヒドリド移動によりアクリダンを生成する事実を発見した. この手法を用いると, メタノールを光エネルギーでメトキシドアニオンへ変換できたことになり, 極めて興味深い. そこで9位にメチル基を導入したアクリジニウム塩(DMAC)を用い, 同様の実験を試みたところ, 塩基存在下に生成したDMACのメタノール付加体は, 自発的にヘテロリシスを受け, アクリジニウムカチオンとメトキシドアニオンを与えることを見い出したが, メトキシドアニオンは分子内的にアクリジニウムカチオンの9位のメチル基からプロトンを引き抜く反応を起こし, 他分子との反応に使える触媒とはならなかった. 次に9位にフェニル基を導入したアクリジニウム塩(PMAC)を用いた実験を試みた. メタノール付加体の生成およびメタノール付加体の自発的ヘテロリシス反応が進行することはDMACと同様であったが, この場合ヘテロリシスで生ずるイオン対の間での反応は認められなかった. メタノール付加体にK_2CO_3存在下光照射すると, 比較的高収率で9,10-ジヒドロアクリジン体が生成した. このジヒドロ体の生成は, 種々検討した結果, 光ヘテロリシスで生ずる高振動準位のイオン対内でのヒドリド移動によることが明らかとなった. 現在までにアクリジニウム塩を有効な触媒とする反応をまだ見い出していないが, アルコール酸化触媒, 光エネルギー変換触媒となる可能性がある.
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