研究概要 |
高分子の含水ゲル膜について、不揮発性の第3成分を添加することにより、膜の成分に対して期待されるより大きな気体の選択透過が起り得ることを本研究までの準備段階で確認した。この考えに基づき、グルタルアルデヒドで橋かけしたポリビニルアルコール膜を調製した。この際、橋かけ度を変えると、第3成分水溶液に浸した際に40〜80%の異なる含水量の膜となる。このような膜を、LiCl,CsCl,【(Et)_4】NCl,NaB【(Ph)_4】を1〜5%含む水溶液で膨潤させたのち、膜の両側をほゞ1気圧と0気圧に保って、酸素と窒素の透過係数(P)を23℃で測定した。酸素と窒素のPは、膜の含水率の低下と共に低下する。この際、第3成分の種類と濃度によって、低下の仕方が異なる。例えば、尿素の添加は、同じ含水率の含純水膜よりも高いPを与えるが、LiClの添加は、より低いPを与えることが分った。このような変化の程度が、酸素と窒素で異なるので、両気体のPの比(選択係数:α)が、LiClで14倍,尿素で8倍と、既知の膜の〜3倍に較べて著しく高くなることが明らかになった。α=14では空気から酸素含率80%の気体を一段で得ることができる。ただしPの大きさは、実用化可能な値の、1/2〜1/10である。この成果の他に、LiI,Zn【Cl_2】チオ尿素などを添加した系についても酸素と窒素のPを測定し、5〜10のαを得た。このような選択透過の機構を調べるために、膜中の気体の拡散係数Dを測定し、PとDから気体の溶解度係数Sを評価した。膜へのLiClの添加は、Dを低下させるが、酸素のSを大巾に増大させるので、高い酸素の選択透過が起こることが、これより明らかになった。現在、大きなPと高いαを与える第3成分の探策、膜中の水溶液相を、DとSの異なる高分子鎖近傍とバルクに分けた二元機構による理論的解明、などを行っている。以上本研究では、従来知られていなかった原理による酸素富化膜を提案する。
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