研究概要 |
生体由来のα-ポリリンゴ酸を化学的に合成することが可能であることを申請者は先に報告した。これはβ-ベンジルマレートをDCC法で直接重縮合してポリベンジルマレートとし、この水添により目的のα-ポリリンゴ酸を合成するという試みであったが、分子量と収率の点で必ずしも十分な結果は得られていなかった。そこで、分子量と収率を高めるために、61年度は下記のように、L-リンゴ酸のβ-ベンジルエステルの環状ダイマーを開環重合させるという新しい手法を適用してこのポリマーの合成条件を検討した。1.L-アスパラギン酸あるいはL-リンゴ酸を出発物質として2つの経路でL-リンゴ酸β-ベンジルエステルの合成を行ったが、取り扱いや収率の面で前者を原料とした合成法の方が有利であることを知った。2.酸化亜鉛を触媒としてL-リンゴ酸β-ベンジルエステルより環状ダイマーであるマライドベンジルエステルを合成したが、収率はあまりよくなかった。3.有機スズ系,有機亜鉛系あるいはアンチモン系触媒存在下でマライドジベンジルエステルの開環単独重合を試みた結果、有機スズ系触媒に重合開始能があることがわかったが、現段階では、分子量の高いα-ポリベンジルマレートを高収率で得るには至っていない。4.しかし、マライドジベンジルエステルとラクチドを開環共重合させることにより、分子量を高くすることができることを見い出した。5.パラジウム・カーボン存在下で水素接触還元により、ポリベンジルマレート側鎖の脱保護を行ない、目的とする水溶性のリンゴ酸ホモポリマーおよびコポリマーを得ることができた。6.合成したリンゴ酸ホモポリマーおよびコポリマーは、一部ラセミ化されてはいるが、ほぼ光学活性は保たれていることがわかった。なお、得られたポリエステルの加水分解の予備実験を試みたが、生理食塩水のようなマイルド条件下では分解は起こりにくかった。
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