本研究の目的は植物培養系を用いて細胞および細胞内器官の増殖を機能分化についてその制御機構を生理遺伝学的に解析し理解することにあった。私達は過去三ケ年に渡り細胞および核・クロロプラスト・ミトコンドリア等細胞内器官における核酸・タンパク質合成活性、光合成能および呼吸能等の生理活性を指標として各増殖時期にある細胞と細胞内器官を生理・生化学的に特徴づけ、増殖サイクルの移行と細胞分化をもたらす制御機構を解析してきた。加えて、特に、細胞増殖と細胞分化に重要な役割を果たす植物ホルモンオーキシンの受容体タンパク質に着目して、その生理的・物理化学的特性を解析するとともに、変異株を利用した機能解析を進めた。 この間、光混合栄養株を用いた光合成機能の解析で一報、従属栄養株を用いた呼吸機能の解析、特に、シアン耐性鎖の活性消長に関する研究で1報、更に、膜結合型オーキシン受容体の可溶化とその特性解析および変異体を利用したオーキシン受容体の機能解析で各々1報づつ合計4報の論文を内外の学会誌に発表出来た。オーキシン受容体に関する共著のレビューも近く刊行される予定である。 細胞の増殖と分化・形態形成という基本的な生命現象は動的な遺伝子発現とその制御機構を解析するための重要な場であるとともに、その理解は、特に、植物組織・細胞培養を利用した有用植物の人意的な作出を目指す植物育種の場で有効に利用される可能性を秘めている。私達の研究は今後もこの方向で進められてゆくが、今後は特に、細胞核と細胞内器官(ミトコンドリア・クロロプラスト)の遺伝情報発現に際する相互作用について解析を進めたいと念願している。更に、細胞および組織の恒常性維持に関わる諸機構についても理解を深めたい。
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