研究概要 |
大麦の同位酵素のうち、エステラーゼ同位酵素に関する3遺伝子座(Est-1Est-2およびEst-4)における遺伝的変異について調査した。 1.エステラーゼ同位酵素に関与する3遺伝子座は互いに密接に連鎖し、大麦の第3染色体の長腕末端部に座乗していると推定される。 2.世界の栽培大麦約3000系統について調べたところ、複対立遺伝子がEst-1遺伝子座では4、Est-2遺伝子座では6、Est-4遺伝子座では4種、それぞれみられた。そして、これらを組合せた遺伝子型は30種であった。 3.このうち、主な10遺伝子型の地理的分布には規則性がみられ、栽培大麦の発祥地である西南アジアでは多様性に富み、この地域から遠ざかるにつれて遺伝子型の数は減少した。日本や中国などの東アジア,インドやネパールの南アジア,トルコや殴州,およびエチオピアの系統群間には明らかな同位酵素遺伝子型内差異が認められた。 4.この結果は、エステラーゼ同位酵素遺伝子型が大麦系統を類別する一つの指標して用いられる可能性を示すとともに、比較的明瞭な地理的分布の規則性がみられたことから大麦の起源や系統分化に関する資料を提供するものと考えられる。 5.わが国の二条大麦品種のエステラーゼ同位酵素遺伝子型の推移は顕著であり、豪州から導入したPrior型に統一されている。 6.また、縞萎縮抵抗性付与のために、中国産の木石港3が用いられているが、育成した抵抗性系統のエステラーゼ同位酵素遺伝子型は、すべて木石港3と同じ遺伝子型であった。 7.このような結果から、二条大麦育種において選抜の対象となった重要形質を支配する遺伝子が、これら同位酵素遺伝子と連鎖関係にあることを示唆する。
|