研究概要 |
モモノゴマダラノメイガに対する効果的誘引剤の開発の基礎とするため, 人工培地上で産卵誘引活性糸状菌を特定し, また活性物質の生産様相を室内, 野外実験で解析した. 得られた成果の概要は以下の通りである. 糸状菌の発生したモチ等に由来する4種の非植物病原菌 Penicillium sp., Cladosporium sp., Aspergillus fumigatus, Mucor sp.と, 保存菌株から得た4種の植物病原菌 Endothia parasitica, Alternaria solani, Glomerella cingulata, Botrytis cinerea の計8種をCzapek培地で培養し, 室内でそれらの産卵誘引活性の有無及び強弱を調べた. 8種のうち, Penicillium sp., Cladosporium sp., E.parasiticaの3種が特に強い活性を示し, A.fumigatus, Mucor sp., A.solani にも弱い活性が見られた. Penicillium sp.の活性はリンゴ幼果のそれと差がなかった. 各種修飾を加えた人工培地を用いた試験により, 1)糸状菌の活性物質生産における基質特異性は低く, 寄主植物固有の前駆物質などを必要としない, 2)Mucor sp.は二糖類を活性物質へと代謝できないが, 他の非植物病原性糸状菌は二糖も代謝できる, 3)α-ケトグルタール酸とL-アルギニン添加培地でのPenicillium sp.の活性は無添加培地よりも有意に増加することが判明した. 室内でPenicillium sp.とリンゴ幼果の既交尾雌, 未交尾雌及び雄成虫対する誘引性を検討したところ, 既交尾雌は両者に強く誘引されたが, 未交尾雌及び雄はまったく反応を示さなかった. また野外網室での産卵試験では, リンゴよりも Penicillium sp.に多くの産卵が見られた. 一方, トラップによる誘引捕穫試験で, Penicillium sp.はリンゴと同程度の誘引効果を示した. 以上の結果から, Penicillium sp.等の生産する活性物質は本種雌成虫のトラップ誘引剤として有効であると考えられた.
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