マツ類の樹皮下穿孔虫のうち、西日本に広く分布するキイロコキクイムシを供試し、以下の実験結果を得た。 (1)アクリル樹脂製風洞内で飛翔行動を観察したところ、21℃以上で飛行がみられ、25〜34℃でピークに達した。無風時には顕著な正の走光性を示す。フェロモン源(処女雌穿孔餌木)に対しては雌雄ともに定位行動を示し、一定の軌跡をえがいて飛翔することが明らかになった。 (2)雌雄間のコミュニケーションについては、雄が発する摩擦音を録音解析した。まず、翅鞘と服部背板とをこすって発する摩擦音は穿孔中の雌に対する到着告知信号であって、平均1.5分間発音する。通常、最初のパルスのあと、157ミリ秒経ってから11〜47個のパルスからなる連続音(パルス間隔は63ミリ秒)がつづき、平均1.3分間発音する。さらに、117ミリ秒経って、1パルスを発することがある。一方、頭部と前胸背板とをこすって、16〜30個のパルス(間隔は194〜206ミリ秒)からなる間欠摩擦音を発しながら、雌を孔内へ押し込む。 (3)有力天敵であるハットリキクイコマユバチは奇生(キクイムシ2齢幼虫)穿孔木の樹表で、触角によるドラミング歩行と旋回歩行についで産卵を開始する。その際、寄生の直上の樹皮表面温度(ホットスポット)とその周辺のそれとの間に有意差がないことや、人工ホットスポットに対しても産卵行動を示さなかったことから、ホットスポットは奇生探索の手がかりとならない。一方、寄生幼虫の摂食音を録音し、その再生音を樹皮上の寄生蜂に聞かせた場合、明らかに探索行動時間が長くなったことから、その音が寄生探索の手がかりになっていることが示唆された。
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