研究概要 |
本研究においては, 絹フィブロインの酵素分解により得た結晶性分画試料(Fcp)および絹フィブロインの結晶性部分のモデル化合物であるpoly(L-Ala-Gly)試料を透析法により調整してSilkI型構造の試料を得, それらのX線回折, 電子線回折より分子構造, 結晶構造を解析することを目的としている. 初年度において, 試料調整のための透析法を確立し, 最終年度は主としてX線回折, 電子線回折実験と, それにより得られた回折データの解析, 指数付けを行ない, SilkI型構造の解析に着手した. (1)SilkI型構造を得るための透析法の確立 絹フィブロインのα-キモトリプシン消化により得た結晶性分画(Fcp)試料から透析によりSilkI型結晶(Fcplx)を得るための条件を, pH, 温度, 濃度を変数として探した. その結果, 通常の実験室温度における透析ではpHのみが結晶形態に影響し, silkI型結晶の析出にはpH5以下の酸性側での透析が必要であることを明らかにした. (日蚕試56(1), 83, 1987) (2)X-線回折, 電子線回折によるSilkI型結晶構造の研究 (1)で確立された試料調整法によって得たSilkI型結晶のX線および電子線回折データを解析した結果, 従来は異なったb軸の値が報告されていたFcplx試料とモデル化合物poly(Ala-Gly)が本質的には同一の単位格子であることがわかった. また, C(繊維軸の長さは従来報告されてきた値(9.6A2F2or9.1A2F2)よりも, さらに短かく(8.8A2F2), 分子鎖の自由度がかなり大きい事がわかった. 分子鎖は正確には8.8A2F2中にAla-Glyを単位として2単位で1回転する2/1-helixを形成しているが, AlaとGlyの主鎖コンフォメーションは非常に似ており, アミノ酸1残基を単位とした4/1-helixに近い事も明らかになった.
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