研究概要 |
「時間生物学」や「生体リズム学」については, 特に, 体内時計の所在とメカニズムに関する多くの論議がある. しかし, 「生物時計」がどのような物質や仕組みによっているのかは不明のままである. 本研究は, 生物測時機構について, 時計機能をもつと考えられるタンパク質を中心にして分子論的に解明しようとするものである. 時計機能をもつタンパク質は, カイコ休眠卵から針状結晶として得られたある種のエステラーゼ(エステーラゼA_4:EaseA_4)である. 休眠は一定の持続期間があり, インターバルタイマー型の生物測時現象である. カイコ卵の場合, 一定期間の低温(5°C)によってEaseA_4が活性化され, この活性化が休眠終了の引き金になっている. 卵を産下2日後から5°Cに冷蔵すると, 休眠は約2週間で終了し, この直前にEaseA_4が最大活性を示した. 産下2日後卵のEaseA_4をin vitro冷蔵しても, 約12日後に活性のピークが現れた. 卵を産下2日後から12日後まで冷蔵し, この10日冷蔵卵のEaseA_4をin vitro冷蔵すると, 2日前後すなわち, in vivoとの合計で約12日後にピークが現れた. 24日間の冷蔵によって完全に失活したEaseA_4を6M塩酸グアニジン(GuHCl)処理したところ, 約12日後にピークが出現した. 再びGuHCl処理しても, 再々冷蔵12日後に活性が出現した. 活性発現前, すなわち冷蔵8日後にG_uHCl処理しても, 処理12日後に活性が現れた. EaseA_4タンパク質の構造中にタイマー機構が組み込まれている可能性がある. カイコ休眠卵の活性化は, 真核生物の遺伝子発現・代謝調節機構に関する生化学的実験系の有効なモデルである. 本研究により, 測時機構と遺伝子発現スイッチングとの接点が求められれば幸いである.
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