研究概要 |
これまでに絹や繭糸の非水系溶媒による影響について研究を進め、溶媒処理した絹の性状(桑原ら,日蚕雑,43,325〜331・1974)、繭糸の有機溶媒処理による膨潤性(桑原ら,日蚕雑,46,38〜44・1977)、有機溶媒処理による絹の微細構造の変化(桑原ら,日蚕雑,52,22〜26・1983)などを報告した。いずれも、伸度や収縮率が増大し非結晶部分のみならず結晶部分にも影響を及ぼすことが分った。 このことから、絹を6種の非水系溶媒と蒸溜水で50℃下、5時間浸漬前処理し、3種の異なる酸性染料による温度別・堅牢染色の可能性について検討した。 非水系溶媒前処理による絹の温度別・堅牢染色性に及ぼす影響は、前処理剤として用いた非水系溶媒の種類によっても異なるが、それ以上に染料の種類,化学構造,分子量,分子容などに大きく左右されることが分った。つまり、酸性染料の中でも化学構造が比較的簡単で分子量や分子容の小さいアゾ系のC.I.Acid orange7染色の場合は、未処理も含めて低温度染色ほど良好であるが、前処理によって染料吸収量が増加し、特にエチレンジアミン,ジメチルスルホキシド,ジメチルホルムアミド前処理が効果的であった。 また、化学構造が複雑で分子量,分子容ともに大きいアントラキノン系のC.I.Acid blue43染色では、エチレンジアミン前処理が良好で、低温度・堅牢染色が想定されたが、その他の非水系溶媒ではほとんど効果が認められなかった。化学構造が直線状で直接染料に近い性質(たとえば、粒子径,分子量が大きくコロイド溶液の形をとるなど)を持っているミーリング染料C.I.Acid blue120染色の場合は、いずれも高温度染色ほど良好で、非水系溶媒前処理による効果(吸着量の増加,染色速度,堅牢度の向上など)は、ほとんど認められないことが分った。
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