研究概要 |
カゼイン,乳清蛋白質を経口投与した場合、同種の抗原を静脈免疫した場合の抗体産生が抑制される(免疫寛容現象)ことが知られている。この現象をマウスを実験動物としてさまざまな角度から観察した。その結果、マウスの種類、週令は関係がないこと、各個体について免疫寛容の誘導を調べた結果、寛容現象は恒常的に出現するわけでないことが明らかとなった。その原因は、抗原が腸管免疫を司る免疫系に達するまで、生体系により何らかの修飾を受けたためであると推定された。この点を明らかにするための一方法として、上記抗原を餌料としてマウスに定常的に与えた場合と腹腔あるいは静脈免疫した場合に産生される抗体のエピトープ認識の比較を試みた。その結果は次のようにまとめられる。1.カゼイン,乳清蛋白質に対する抗体は、経口的に投与された場合でも産生される。ただし、その抗体価は比較的小さい。2.エピトープ認識の比較を行なうため、【α(_S1)】-カゼインを静脈注射した場合、抗体によって認識されるエピトープ群を、そのトリプシン,キモトリプシン分解物,および【α(_S1)】-カゼインの一次構造に模した20残基より成り、5残基づつの重なりを持つ合成ペプチドを用いて決定した。その結果、【α(_S1)】-カゼインの33-54,105-119,133-151,174-199の領域にエピトープが存在することが明らかとなった。3.これに対して、経口投与した場合に得られる抗血清では、抗体の認識するエピトープは静脈免疫の場合のエピトープに含まれるものの、エピトープ数は少なかった。以上の様な結果は、抗原を経口的に投与した場合、これに対する抗体の産生が必ずしも完全には抑制される訳ではないこと、さらに、経口的に抗体が与えられた場合には、静脈免疫した場合と産生される抗体のポピュレーションが異なることを示したものである。
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