ニワトリヒナにエストロジェンを含む半透性のチューブを皮下に埋め込み、10〜15日間ホルモンを作用させた。その結果、輸卵管細胞内では、ホルモン-レセプター複合体のクロマチンへの結合およびコンアルブミンの遺伝子発現と連動して、クロマチンの構成成分であるヒストンのアセチル化活性が高まった。そこで、遺伝子発現におけるヒストンアセチル化の役割を知るため、アセチル化を受けたヌクレオソーム(クロマチンの単位構造)の特性を調べた。 エストロジェンを作用させたヒナの輸卵管を細片化後、シクロヘキシイミド存在下に【^3H】-酢酸ソーダとインキュベートし、ヌクレオソームのヒストンをアセチル基でラベルした。アセチル化ヌクレオソームをヒドロキシルアパタイトのカラムクロマトにかけたところ、リン酸緩衝液の濃度を0.1〜0.5Mに上昇させた場合には、ヌクレオソームがインタクトな形態、即ちDNAとヒストンの複合体として溶出した。これに対し、食塩濃度を0〜2.0Mに上昇させた場合、DNAは全く溶出せず、DNAから解離したヒストンが溶出した。溶出画分のアセチル化ヒストンを、酸尿素ゲル電気泳動の後、フロログラフィーにより分析したところ、高度にアセチル化を受けたヒストンは、非アセチル化又は低アセチル化ヒストンに比べ、より低い食塩濃度でDNAから解離することが分った。即ち、ヒストンが高度にアセチル化を受けることにより、ヒストンとDNA間の相互作用が弱められ、ヌクレオソーム構造が弛緩することが強く示唆された。 以上の結果から、ステロイドホルモン・レセプター複合体の遺伝子発現機構として、ヒストンアセチル化によるヌクレオソーム構造の弛緩が重要な役割を果すものと思われる。
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