研究概要 |
海洋環境に生息する細菌の多くは, その生育にNa^+を要求する好塩細菌である. グラム陰性の海洋細菌Vibrio alginolytiousは, 生育にNa^+を要求するだけでなく, アミノ酸能動輸送や鞭毛運動も, 膜を介して形成されたNa^+電気化学ポテンシャル差によって駆動されている. また, V.alginolyticusには, 電子伝達によって直接Na^+を排出する呼吸鎖(Na^+ポンプ)が存在しており, Na^+電気化学ポテンシャル差の形成を行っている. これまでの研究で, Na^+ポンプはNADH oxidaseのキノン還元部位であること, この部位は3種のサブユニットから成り, 活性にNa^+を要求することを明らかにした. さらに, 10種のグラム陰性海洋細菌を調べ, Vibrio, Alkaligenes, Alteromonasに属する9種について, キノン還元部位でNa^+を要求するNADH oxidaseの存在を明らかにした. そこで, このNa^+要求部位の詳細な性質を調べ, V.alginolyticusとの共通性があるかどうかを検討した. 9種の細菌すべてについて, NADH oxidaseのキノン還元部位は, 2-heptyl-4-hydroxyquinoline-N-oxide(HQNO)で特異的に強く阻害された. この部位によるキノンのキノールへの還元は, 反応中間体としてセミキノンラジカルを経由する2段階の反応でおきることが明らかとなった. また, セミキノンラジカル形成を行うNADH脱水素酵素にはNa^+要求性がなく, セミキノンラジカルからキノールが形成される段階にNa^+が必須となることも判明した. 脱水素酵素はAg^+で強く阻害されるが, HQNOには抵抗性であるため, HQNO阻害部位はセミキノンラジカルからキノールが形成される段階であると考えられる. また, これらのNa^+要求性NADH oxidaseは, deamino-NADHを基質として酸化できる特徴を持っていることも明らかとなった. これらの性質は, すべてV.alginolyticusのNa^+ポンプと同一であり, 海洋性好塩細菌には, 性質の同一なNa^+ポンプが広く分布していることが確かとなった.
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