当研究室で堆肥から分離した好熱菌Bacterium T株は、Bacillus属の一種S株との共存下でのみ生育し、耐熱性のトリプトファナーゼを生産するが、混合培養系における酵素生産のための条件は複雑である。本トリプトファナーゼの培養条件の単純化と生産性の向上を目標として、本酵素遺伝子のクローン化を行なった。トリプトファナーゼ生産菌T株の全DNAをHind【III】またはBamH【I】で切断し、活性発現ベクターpYEJ001に連結して大腸菌を形質転換した実験では、それぞれ数万コロニーの組換え体コロニーの呈色反応でトリプトファナーゼ生産株は得られなかった。次にT株S株混合培養で得た菌体をリゾチーム処理してS株のみを溶菌させて遠心により精製したT株細胞から磨砕によってトリプトファナーゼを抽出し、イオン交換、ゲル濾過、疎水クロマト等のカラムによって本酵素を精製し、そのN末端35アミノ酸の配列を決定した。このアミノ酸配列の一部【^6F】KIKM【^(11)V】および【^(31)Y】NPF【^(35)V】に相当する17merと14merのDNAプローブを化学合成し、これとハイブリダイズするT株DNAのBamHI断片をpBR322をベクターとして大腸菌中でクローン化した。得られた組み換え体プラスミドの持つ5.4KbのDNA断片を各種の制限酵素によって切断して地図を作成した結果、その中央部に位置する1.15KbのKpm【I】-Pvu【II】断片が両方のプローブとハイブリダイズすることが確認された。したがって、分子量46000のサブユニット4個から成るトリプトファナーゼの遺伝子の全長が、クローン化された5.4Kb断片中に含まれていると考えられるので、その塩基配列の決定を行なっている。トリプトファナーゼをコードするopen reading frameが決定されたならば、これに大腸菌のコンセンサスプロモーターとSD配列を付加し、大腸菌における本酵素の高能率生産を達成することを計画している。
|