研究概要 |
1.パン酵母による1,3-ジケトンの還元:パン酵母が様々なカルボニル化合物を還元して対応するアルコールの光学活性体を与えることは既知であるが、鎖状の1,3-ジケトンに対する反応は知られていなかった。これらの還元反応は既知である1.4-ジケトンの還元、アセト酢酸エチルの還元と比較して、また期待される生成物が有用物質合成のための光学活性中間体となることと合わせて興味深い研究課題である。そこで我々は種々の2,4-アルカンジオンを合成し、発酵パン酵母による還元に付した。その結果、末端に近い方の2位のカルボニル基のみが位置選択的ならびにエナンチオ選択的に還元され、(S)-2-ヒドロキシ-4-アルカノンが好収率で得られた。収率は培地のpH,基質濃度,反応時間,基質の構造によって左右されるが、良好なものでは60%以上で、光学純度は事実上100%である。この反応を利用すると松科の植物に対する害虫であるコガネ虫の一種の集合フェロモンであるビシクロノナン誘導体を8,8-エチレンジオキシノナン-2,4-ジオンの不斉還元によって短工程で容易に合成できる。 2.コリネバクテリウム・エクィ(C.egui)による1-フェニルアルカン-1,2-ジオール及び1,2-ジオンの酸化還元:共通の出発物質である1-フェニルプロピンから別々に得られるトレオ及びエリトロの1-フェニルプロパン-1,2-ジオールをC.eguiで酸化すると位置選択的にベンジル位のみが酸化された。しかもその立体配置も厳密に識別され、Rの水酸基のみがカルボニルに変換された。したがってトレオ体からはR、エリトロ体からはSの絶対立体配置を有するヒドロキンケトンが好収率で得られた。炭素鎖の長い基質は逆に還元反応が進行し、1-フェニルデカン-1,2-ジオンからヒドロキシケトンが得られた。位置選択性は認められなかったが、今後基質をデザインすることにより更に検討する。
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