研究概要 |
グラム陽性菌のペプチドグリカン, グラム陰性菌細胞膜表層にあるリピドA, 及び動物細胞表層に局在するガングリオシドは複合糖質であり, いずれの物質も細胞自体の生存にとって不可欠であると同時に, 他生体に様々な影響をあたえる. 本研究においては, これらの複雑な構造を有する化合物を有機合成化学的手法により単一な化合物として合成すること, ついでその生物学的作用や役割について検討することを目的とした. ペプチドグリカンに関しては, その活性本体と考えられているN-アセチルムラミルーL-アラニルーD-イソグルタミンの糖構造と活性, 分子の立体配置と活性, 分子の物理化学的性質と活性等あらゆる角度から検討を加えるために300種余の化合物を合成し, 生物活性発現に対する立体要求性を解明することができ, この分子種の有する活性と毒性を分離することにも成功した. またグラム陰性菌内毒素成分リピドAに関しても100種余の類縁体を合成し, 活性発現のための稀少構造を明らかにするとともに, 毒性を有さず, 免疫増強活性, 感染防御活性及び制がん活性を有する化合物に達することができた. 動物細胞の表層には糖蛋白質, 糖脂質が存在し細胞の顔として, 細胞間識別, 抗源質の発現, 毒素, ホルモンの受容体としての働きをしている. その中でガングリオシドと呼ばれているスフィンゴ糖脂質は脂質部分として, スフィンコシンの酸ラミド誘導体, 糖鎖及びN-アセチルヤルーグリコリルーノイラミン酸が結合した複雑な化合物であり, 分子多様性であり, その合成法が強く望まれている. このためにまず糖鎖の合成, スフィンゴシンの合成法, シラル酸及びその類縁体の合成に成功した. ついでこれらの各ユニットの特定の位置で, 特定の立体化学での縮合方法について検討を加えた. その結果, 最も困難とされていたシラル酸のα-グリコシドの合成に成功しガングリシドの系統的合成を可能とした.
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